「呪文」を覚える時代があった
AIを使いこなすには、うまいプロンプトを書く技術が必要だ。少し前まで、本気でそう言われていました。
「あなたは優秀な〇〇です」で始める。手順を箇条書きで細かく指定する。出力形式を例で示す。そんな「型」を集めたテンプレート集が売られ、プロンプトエンジニアという肩書きまで生まれました。
でも今、毎日AIと仕事をしていて思います。あの呪文、もうほとんど唱えていないな、と。
AIが「察する」ようになった
理由はシンプルで、AIのほうが賢くなったからです。
以前のAIは、言われたことを言われた通りにしかできませんでした。だから人間が、誤解の余地がないよう指示を組み立てる必要があった。プロンプトの技術とは、言ってみればAIの理解力の低さを補う技術だったわけです。
今は違います。「来月のイベントの告知文、いつもの感じで」と雑に頼んでも、意図を汲んで形にしてくる。足りない情報があれば向こうから聞いてくる。指示書を書くより、隣の同僚に話しかける感覚に近くなりました。
代わりに大事になった3つのこと
じゃあ、もう何も考えなくていいのか。そうではありません。問われるものが変わっただけです。
- 文脈を渡すこと。AIは賢くても、うちの会社の事情は知りません。誰に向けた文章か、過去に何があったか。この背景を共有できるかで、出てくるものの質が決まります。
- 判断すること。AIは何案でも出してくれます。でも、どれを選ぶか、どこで止めるかは人間の仕事です。
- 任せ方を知ること。全部を一度に頼むより、まず形にしてもらい、見ながら直していく。完璧な指示を一発で書くより、やりとりで育てるほうがずっと早い。
必要なのは「書く技術」ではなく、
「仕事を渡す技術」。
部下や外注先に仕事を頼むときと同じスキルです。
柔術道場のバックオフィスで実感していること
私は柔術道場を運営する会社で、経理・人事・総務・広報・イベント運営までほぼ一人で回しています。領収書の整理、給与振込、ポスターやパンフレット、プレスリリース。正直、AIなしでは回りません。
その中で、プロンプトを工夫して成果が上がった、という実感はあまりありません。効いたのは、会社やジムの前提をきちんと伝えたことと、出てきたものを見て「ここは違う」と言えたことです。
柔術でも、技の名前を知っているだけでは勝てません。相手の動きを感じて、その場で判断できるかどうか。AIとの仕事も同じだと思っています。
なぜ私がここまでできるのか
よく「一人でどうやって回してるの?」と聞かれます。答えは、AIがすごいからだけではありません。AIに渡せる「土台」が、たまたま私の中にあったからだと思っています。
新卒から大学職員として長く働き、組織のバックオフィスがどう動くかを現場で見てきました。中央大学の経済学部では、エクセルを使い倒し、論述を山ほど書きました。おかげで、頭の中で論理を組み立てるのが速くなったと思います。AIに何をどう頼むかを一瞬で整理できるのは、たぶんこのときの訓練のおかげです。その後、早稲田大学大学院のスポーツ科学研究科でスポーツ組織のことを学びました。そして何より、柔術の世界が好きなこと。私は競技者ではありません。でも、夫の良蔵さんや道場に集まる皆さんが好きで、気づけばこの世界にどっぷり浸かっていました。
AIは、私が知らないことを補ってくれます。でも、何が正しくて何が違うかを判断する物差しは、私の経験の中にしかありません。経験があるからAIに的確に任せられるし、AIがいるから一人で何人分もの仕事に手が届く。その掛け算が、今の私の働き方です。
問われるのは「何をしたいか」
プロンプトの時代は終わりました。これからは、どう聞くかより、何を成し遂げたいのかがはっきりしている人が強い。
テンプレート集を探す時間があったら、自分の仕事の目的を一言で言えるようにしておく。そのほうが、AIはよほど良い相棒になってくれます。
ちなみに、このブログもClaudeと一緒に書きました。凝ったプロンプトは一つも使っていません。「プロンプトの時代は終わったってブログ書きたい」と話しかけて、あとは「そこ違う」「これも入れて」とやりとりしただけです。